シリコンバレーは心の中に

Economist のサイトに興味深い記事が載っていた。
テキサスへ流入する人口とシリコンバレーから流出する人口をグラフィカルに地図上に表したものだ。記事中で「これって別に真新しいことじゃないけど」と書かれているんだけど自分は知らなかったことなので書き留めておく。



さて、地図を見るとテキサスに多くの人が流れ込み、シリコンバレーからは逆に多くが流出していることが見て取れる。
テキサスでは所得税がなかったり、そのほかの生活コストがそもそも安く、逆にカリフォルニアでは税金や物価も含めて相当高額である。なので例えばカリフォルニアからテキサスに引っ越すだけで自分の所得が増える。このような事情からシリコンバレーを抜け出して北へ南へという途を辿る人は多いようだ。
これが即、例えばテキサスが次世代のシリコンバレーにつながるかというとそうではない。シリコンバレーの強みはやはりカネ、モノ、ヒトがうまくクラスターを形成しているところにある。地理的なハンディキャップをなくすような数々のテクノロジーを開発していながらも、大切なのはやはりフェイストゥーフェイスということなのだろうか。

ただし、ここへきて少しずつ変化が現れ始めている。

ビジネスを始めるにあたり必須とされていたものが今日、その重要性を失いつつあるのだ。
例えば Web サービスで起業する場合、必要な資金は主にファウンダとエンジニアの生活費、後はわずかの設備費用くらいのものなので、必要なのは Y Combinator みたいに100万円とか200万円でいいのでポンと出してくれるようなトコ。それゆえ VC はもう存在価値を失っているのではないかという議論さえも起きている。*1
こういったことから Web サービスを提供する企業をブートストラップで始める場合、シリコンバレーで起業する意味は過去に比べて薄くなってきており、テキサスのように生活コストが安い場所で起業することもオプションに入ってくるということだ。

自分は日本でも同じような形でブートストラップで Web サービスを提供するようなベンチャーがそこかしこで誕生するようになると考えている。
日本ではエンジェル投資家が圧倒的に少ない上、ベンチャーキャピタルから出資を受けることも難しく、従来であれば起業には相当の体力が必要だった。だがこの、最小単位のベンチャー(パーティクルベンチャー?(笑))であればさほどの体力は必要ない。自分の懐で完結できればステージなんて関係ないので、VCに継続出資をお願いする必要もないし、出口戦略も関係ない。
付近の人たちから「あの人無職なのかしら?」と思われている人が実は Web サービスで月1,000万円以上売り上げている、とかちょっと面白そうでもある。
(いいうわさは絶対なさそうだけどね)
クラウドの出現により素早いスケールイン・スケールアウトが可能になった今、それなりの規模のサービスを一人でハンドルすることは決して夢ではなくなった。こうした状況の中、シリコンバレーという概念はすでにカリフォルニアという実在する土地から個々の心の中へとリロケートしつつあるのかもしれない。

*1:もちろん、グリーン系やバイオ系、ハードを作りだすようなベンチャーにはそれなりの額の資金が必要になるので VC のようにまとまった資金を提供してくれるところは今までと同様に必要である。